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キューバの歴史家エウセビオ・レアル博士死去

  世界的に知られたキューバの歴史家で首都ハバナの公式史家だったエウセビオ・レアル=スペングレル歴史学博士(77)が7月31日、癌で死去した。  政府は8月1日を国喪と定め、国中の政府機関を半旗にした。ハバナは悲しみに包まれ、故人がとくに調査や修復に力を注いだ旧市街では、市民が思い思いに白布を通りや窓に掲げ、「永遠にハバナを愛する人レアル」に哀悼の心をささげた。  レアルは1942年9月ハバナ生まれ。75年にハバナ大学歴史学部を卒業。革命政権ができた59年ハバナ市役所に勤務、67年ハバナ市博物館長になる。79年に旧大統領政庁(元スペイン総督政庁、現革命博物館)の修復作業を指揮。80年にはイタリアの奨学生として留学、ローマをはじめ古都市街地の修復作業を学んだ。  帰国後ハバナキュ市街の修復に力を入れ、1982年の同地の世界遺産登録に尽力。86年にはハバナ湾東側の丘上にあるラ・カバーニャ、モロ両要塞の修復に当たった。  91年以降、共産党中央委員、人民権力全国会議(立法府)議員、ユネスコ親善大使、玖日友好議員団副会長や、歴史学会などさまざまな協会の会長を務めた。  2000年歴史学博士号取得。19年11月16日のハバナ建都500周年行事を指揮。来訪したスペイン国王夫妻を案内した。  革命以来、故フィデル・カストロ元議長に近かった。旧ソ連書記長、ローマ教皇、各国首脳ら外国要人のハバナ旧市街散策に同伴した。来日時、上智大学や創価大学で講演した。 ▼国連が今秋の玖経済封鎖解除決議中止  国連はコロナ疫病蔓延に鑑み7月29日、総会での米国による対玖経済封鎖解除決議を今秋(10月)は中止することを決めた。21年5月以降に決議投票日程が決まる。  米国はキュ―バ革命から間もなく経済封鎖を始め、それが他の敵対行動と共に、キューバをソ連に接近させる要因となった。  キューバはソ連消滅の翌年1992年に封鎖解除決議を国連総会に求め、以来昨年まで28回連続で封鎖解除決議を勝ち取ってきた。決議に拘束力はないが、「対米外交の勝利」を象徴するものとしてキューバには最も重要な「恒例の外交行事」になってきた。     

カラカスにイランと合弁の巨大Sマーケット開く

 ベネズエラ首都カラカスに7月29日、イラン資本との合弁で、巨大なスペルメルカード(SM=スーパーマーケット)「メガシス」が開店した。米国に厳しく経済封鎖されている両国は、主権を行使して抵抗の意志を明確に示したと言える。  開店式に出席したH・スルタン駐VENイラン大使は、「イランには自由交易の完全な権利がある」と強調した。  メガシスには、イランでSMチェーン700店を経営する実業家イッサ・レザエイ氏とVEN企業などが初期投資1000万ドルを投下している。食品を中心にイラン産品2500種類、果実などVEN産品1000種類が販売される。  広大な用地では、かつてフランスとコロンビアの資本で建設されたSM「エキシト」があった。これをチャベス前政権が2010年に接収。最近は、マドゥーロ政権支持派への食糧供給制度「CLAP」(クラップ)の物資集積所になっていた。これを改造したのがメガシスだ。「巨大なオアシス」という意味だろう。  メガシスを30日視察したデルシー・ロドリゲス副大統領は、「米国から封鎖されている我々両国の協力の賜だ。独立、自由、主権防衛の意志があれば、封鎖は利かない」と述べた。副大統領は、イランのハッサン・ロウハニ大統領に謝意を表明した。  これに対し、米国務省ラ米担当者はワシントンで、「この店(メガシス)は、両パリアー国家の同盟関係を示している」と扱き下ろした。  イランは最近、タンカー6隻をVENに派遣、計150万バレルの原油や石油製品を届けた。産油国VENは、原油生産・精製能力が落ち、ガソリン不足などに陥っている。メガシスに並べられている商品は6月にイランの貨物船が運び込んでいた。    

サンパウロ・フォーラムがテレ首脳会合

 ラ米・カリブ(LAC)諸国の左翼・進歩主義勢力の会合「フォロ・デ・サンパウロ」(FSP、サンパウロ・フォーラム)の結成30周年を記念する玖VENニカ3カ国首脳テレ会合が7月28日(日本時間29日未明)、2時間40分に亘って開かれた。  FSPのモニカ・ヴァレンテ事務局長(ブラジル)の司会でニカラグアのダニエル・オルテガ大統領、ベネズエラのニコラース・マドゥーロ大統領、キューバのミゲル・ディアスカネル大統領の順に演説した。  東西冷戦終結が宣言され、ソ連が消滅寸前だった1990年7月、故フィデル・カストロ玖国家評議会議長と、ルイス=イナシオ・ルーラ=ダ・シルヴァ伯労働者党(PT)党首(後の大統領)の発案により、第1回FSPの会合がサンパウロ市で開かれた。  ベルリンの壁崩壊後、欧州社会主義陣営が雪崩を打って崩れ去っていた時、LACの左翼・進歩主義の市民運動、労働者・農民運動、政府・政党、知識人、芸術家、先住民らを結集させ、「もう一つのより良い世界は可能だ」という「アルテルムンディズモ」を掲げて始まったのがFSPだった。  年次会合は91年の第2回メキシコ市以後、マナグア、ハバナ、モンテビデーオ、サンサルバドール、ポルトアレーグレ、メキシコ市、マナグア、ハバナ、グアテマラ市、キト、サンパウロ、サンサルバドール、モンテビデーオ、メキシコ市、ブエノスアイレス、マナグア、カラカス、サンパウロ、ラパス、メキシコ市、サンサルバドール、マナグア、ハバナ、カラカスで開かれてきた。開催中止になった年もある。  今年はコロナ疫病COVID19蔓延のため、このテレ会合となった。最初に登場したオルテガは1時間も語り続けた。「最強の大国・米国がベネズエラを脅威と公言するのは、同国を攻撃する口実にするためだ」、「尊大な侵略者である米国はラ米の人民と文化を破壊してきた。我々の資源を奪い、我々を自分の中庭と見なしてきた」、「米国は自由な人民の人権侵害者」と、米国を厳しく批判した。  オルテガは、「シモン・ボリーバルの<大きな祖国>実現の夢を達成するため、玖VENニカの3つの革命を統合すべきだ」と訴えた。また「ラ米は連帯と、違いを尊重する模範になるべきだ」、「多くの国が反べネスエラ、反キューバになるよう米国から迫られている」、「メキシコのAMLO大統領は同国の過去の闘争の遺産を救っている

ノルウェーが「ベネズエラ問題」仲介外交再開へ

 ノルウェーは、2019年5月ごろから「ベネズエラ(VEN)問題」解決のためのVEN政府と反政府野党勢力との間で仲介の労をとってきたが、このところ仲介外交を再開させる動きを見せている。  19年4月末、暴力政変肯定派のVEN極右政党「人民意志」(VP)所属のフアン・グアイドー国会議長、自宅軟禁から不法に解放されたVP指導者レオポルド・ロペス逃亡受刑囚らは、トランプ米政権と謀って、ニコラース・マドゥーロ大統領体制を打倒する軍事クーデターを打ち、失敗した。  軍事蜂起に賛同する軍人がほとんどいなかったためで、ロペスはカラカスのスペイン大使館に亡命。同大使公邸に住んで、反政府行動の画策を続けている。  ノルウェーはクーデター失敗を機にオスロに政府、反政府野党両派を招いて対話を図ったが、物別れに終わった。次いで7月、バルバドスでの会合もうまくいかなかった。いずれも反政府野党側が「歩み寄り対話」を拒否したからだが、その後、政府側は米国による経済封鎖などを理由に対話を打ち切った。  今年1月、ノルウェー政府は特使をカラカスに派遣したが、反政府派は特使との話し合いに応じなかった。最近、新たな特使外交が始まりつつあるが、それは米大統領選挙の選挙戦が8月から本格化し、米政府部内でVEN問題が後回しになると予想され、生じる「空白」が対話交渉の好機と考えられるからだ。  米国放送「ヴォイス・オブ・アメリカ」(VOA)は7月27日、ノルウェーは「米国では共和・民主両党が一致してVEN政治の民主化を求めている」という見方・立場に必ずしも立たないのではないか、と伝えている。  ノルウエーは、米国も同意する「VEN問題」解決合意は11月の米大統領選が済むまで実現しないとみており、それまでの「空白」期間に新たな交渉機運構築に動き出したようだ。VOAは、そう見ている。    VENでは12月6日に国会議員選挙が実施される。「選挙では勝てない」と考えるVPは従来通り暴力的政変に固執。他の右翼・保守政党も選挙ボイコットを表明している。だが穏健・中道諸野党は選挙参加を決めている。  ★マドゥーロ政権は、米大統領選挙戦で民主党のジョー・バイデン候補に差を付けられているドナルド・トランプ大統領が不利な状況を逆転させるため、軍事力でマドゥーロ体制を倒しに来る可能性があると警戒している。    ホルヘ・ロドリゲス

阿波弓夫らのラ米詩人選集3年目に

 日本であまり知られていない外国の詩人、もしくは日本でほとんど知られていないラ米諸国の詩人の作品を訳した「ラテンアメリカ訳詩選集」シリーズの「3」が先ごろ刊行された。第1回(2018年)「ガブリエル・サイード」、第2回(19年)「エンリケ・モヤ」に続く今回は、コロンビアの現役詩人ロムロ・ブストス=アギーレ(65)の作品23点である。  主宰者は、半世紀近くメキシコをはじめラ米の文学などに取り組んできた古参ラ米学徒の阿波弓夫氏(今年73)。オクタビオ・パスの体験的研究をまとめた大著がある。  翻訳対象の詩人は、べネズエラ生まれ、オーストリア在住の詩人で、在欧ラ米詩人連盟会長を務めるエンリケ・モヤ(同62、第2回登場)との協働で決めているという。  「ラ米にはメガトン級の詩人が多数いて対話を求め訴えているのに、詩集は売れないとか、自分には翻訳力がないとか、言い訳したり忖度したりして見て見ぬふりしながら、スペイン語を教えていましたと回顧するふざけた老人になりたくないから」ーこのシリーズ刊行を決意した理由を、阿波はそう語る。  この選集は今は、A3型くらいの紙1枚の両面に訳詩を刷り込み、それを地図のように縦長に折りたたんで表裏計8ページにした冊子だが、刊行を重ねて、いずれは価値多き1冊になるはずだ。  「限られた(選ばれた)ごく少数の絶滅危惧種と(問題意識を)共有(共振、共鳴)できるかが、この訳詩の仕事の前提としてある。<反響>という概念など、われわれにはない」と阿波。  今回の「選集3」では、阿波を含む同人9人が訳している。23点のうち最も長い詩「動物園にて」は阿波訳で、これを取り上げたい。「マンドリル」(狒狒)の「忌まわしい後ろ姿」を描写し、情景に感情移入する面白い作品だ。  「想像力の中だけで好みに合わせて観察」するという件(くだり)がミソだ。山場は、狒狒を見る「はち切れんばかりの美形臀部の娘たち」と、恥ずかし気な彼女らの目に晒される狒狒の「破廉恥な肛門開花」。作者ブストス=アギーレは、タイプライターでなくパソコンだろうが、そのテクラ(キー)を己のペネで叩いている。  だが続いて、狒狒の後ろ姿に見るものは「君の外へ溢れ出て、そこで呼吸する内なる君自身に<係わる何ものか>」であることを入園者は悟る、と綴られている。「忌まわしきものは我々を構成し、

「ボリビア政変はリチウムが目的」 イーロン・マスク氏明言

 2019年11月ボリビアで、エボ・モラレス大統領の先住民族主義政権を倒す財界右翼と軍・警察のクーデターが起きたが、7月25日、南アフリカ出身の米実業家イーロン・マスク氏は「クーデターはボリビアのリチウム確保が目的だった」と述べた。  マスクはドナルド・トランプ米大統領に近く、米政府とボリビア政変との関係を熟知する立場にある。ブエノスアイレスで亡命生活を送るモラレスは、「リチウム奪取が原因であるという証言がまた新たに加わった」と述べた。 ★今年6月には、米共和党所属のリチャード・ブラック上院議員が、トランプ政権はリチウムをはじめとするボリビアの資源を狙ってクーデターを促進した、と暴露している。  クーデター決行派は、19年10月の大統領選挙で再選されたモラレスが「不正を働いた」と主張し決起したが、その後、国際的な調査で不正はなかったことが証明されている。  戦略的希少地下資源リチウムは、ボリビア南部のウユニ塩湖、アルゼンチンとチリの北部の塩湖群を結ぶ「三角地帯」に世界資源の85%が集中。ウユニ塩湖一帯には2100万トンの埋蔵量がある。  資源の民族管理を進めていたモラレスは2018年10月、独ACISA社とリチウム開発の契約に調印。19年8月には、中国の新疆TBEA社とリチウム産業開発に向け合弁工場建設契約を結んだ。これは同年6月のモラレス・習近平会談で、モラレスが「一帯一路」構想に賛同し、契約が決まった。  ボリビアでは当初4月3日に大統領選挙が実施されることになっていたが、コロナ禍を理由に、9月6日に延期された。ところが最近、同じ理由で10月18日に再延期された。だが、毎回の世論調査で、モラレスの政党「社会主義運動」(MAS)の候補の優勢が動かないのが真の理由と見られている。  政変後一方的に「暫定大統領」の座に就いた極右女性ジャニーネ・アニェスは、クーデター派の利益代表で、MAS党員らを弾圧してきた。MASの選挙参加資格を剥奪する陰謀も渦巻いている。  エクアドール(赤道国)政府は今月、ラファエル・コレア前大統領派を来年の大統領選挙から締め出した。この動きに最大の関心を抱いているのが、ボリビアのアニェスらクーデター決行勢力だ。 ▼選挙延期に抗議しゼネスト  ボリビア労連、MAS系労農運動組織は8月3日、大統領選挙の10月への再延期に抗議して、反政府・反選管のゼ

メキシコ市で「同性愛治療」禁止法が成立

 メキシコ首都メキシコ市の議会は7月24日、「同性愛者の<治療>」を禁止する新法を可決した。クラウディア・シェインバウム市長の署名と官報記載をもって発効する。  また「LGBT治療」を施そうとする教会、医療従事者、心理学者らを禁錮2~5年および、社会奉仕労働50~100時間に処する罰則も承認された。  法案は賛成49、反対9、棄権5で可決され、成立した。市会前にはLGBT団体の人々や支援者が駆け付け、新法成立を祝った。ある当事者は、「同性愛は病気ではないから治療対象ではない」と語った。 ▼国際テキーラの日  この7月24日は、メキシコが誇る竜舌蘭酒テキーラの国際的消費を讃える「国際テキーラの日」。コローナ禍の中、ハリスコ州都グアダラハーラ郊外にある中心的産地テキーラ市をはじめ関係各地で規模を縮小しての記念行事が催された。  メキシコのテキーラ産業には7万家族が従事している。昨年19年には3億3000万リットルが生産され、新記録となった。製品の8割は米国に輸出される。日本を含む他の約70カ国にも輸出されている。コローナ禍の今年は生産が落ちる。  メキシコでは、アルコール飲料の好まれる順位は、1位がセルべサ(ビール)で52%、テキーラは2位で26%。他はラム、ワイン、ウィスキーなど。テキーラより味がまろやかな竜舌蘭酒「メスカル」を好む者も少なくない。

竹田鎮三郎画伯を描く映画「TAKEDA」へのいざない

 在京メキシコ(墨国)大使館文化部は7月24日~26日、ドキュメンタリー映画「TAKEDA」をオンラインで流している。コローナ禍で外出を避けたい人々に対する粋な計らいだ。  https://youtu.be/XcOrJwIhD_U  もしくは、 https://www.facebook.com/Takedafilm/videos/650451459131428   南墨(メキシコ南部)オアハカ州都オアハカ市の郊外で制作を続ける竹田鎮三郎画伯(今年85歳)が、なぜ日本を去りメキシコに移住し定着したかを描く、墨映画庁2017年製作のドキュメンタリー映画(90分)である。  竹田は愛知県瀬戸市の農家に生まれ、東京芸術大学を卒業したが、抽象画や巴里派としっくりいかなかった。故郷の先達でメキシコに名を残した先輩画家、北川民次を師と仰ぎ、1963年渡墨する。初期はサンカルロス美術学校(メキシコ国立自治大学美術学部)に学び、かつ教えながら、日系画家ルイス西沢のアトリエ兼住居を借りて制作。そこは、墨都の代表的大衆地区の一つテピート地区にあった。  後に地下鉄フアナカトゥラン駅に近いタクバヤ地区に住んだが、やがてオアハカ市に移り、ここを永住地に定める。同市にあるオアハカ大学美術学部の教授、学部長も務めた。「オアハカ画壇」の押しも押されもせぬ指導者、長老となり、今日に至る。弟子たちが少なからず画家として、メキシコ内外で活躍している。  メキシコ、他の米州諸国、日本で個展、回顧展を数多く開いてきた。油絵と版画が中心だ。作風については、この映画を観て、判断願いたい。  映画はまず、農村生まれの「農民」という出自を自認し、置かれた共通の立場をメキシコ南部の農民に見出す竹田を、オアハカと瀬戸を舞台に描く。東京渋谷にある故岡本太郎画伯の代表作の壁画「明日の神話」にしばし向き合う竹田だが、表情は空虚だ。  雑踏の東京、同じく大都会のメキシコ市、いずれも、もはや縁なき空しい都会砂漠に過ぎなくなっていた。岡本の壁画も、そんな雑踏の一角にある「付属物」だと竹田の目には映ったのか。  実は私(伊高)は1967年にサンカルロス美術学校で竹田を取材して以来、53年に亘って竹田と交流してきた。テピートやフアナカトゥランで、日本から竹田の元に届くたくさんの新刊書を読みまわしては読書会をした。私は竹田の「ラカンドン

米政府がベネズエラ最高裁長官逮捕に懸賞金500万ドル

 マイク・ポンペオ米国務長官は7月21日、ベネズエラ(VEN)のマイケル・モレーノ最高裁長官逮捕に賞金500万ドルを懸けると発表した。米政府は今年3月、ニコラース・マドゥーロVEN大統領逮捕(もしくは暗殺)に1500万ドルを懸けた。  今回、モレーノ長官に賞金を懸けたのには理由がある。昨年4月30日、米国が「暫定大統領」に擁立した傀儡政治家フアン・グアイドーVEN国会議長は軍事クーデターを打ち、完全に失敗した。米政府は昨年3月ごろから極秘裏にモレーノ長官と交渉、長官がマドゥーロ政権の合法性の根拠となっている制憲議会(ANC)を「違憲」と宣言するよう要請した。  長官が「違憲」を宣言すれば、VEN国軍が蜂起する可能性があったと、米政府は見ている。その模様は、ジョン・ボルトン回顧録に記されている。だが、長官は宣言せず、軍部も兵営に留まり、政変は不発に終わった。ポンぺオは「クーデター成功」に懸けていたため、落胆。モレーノは潰すべき敵になった。  一方、マドゥーロ大統領への賞金が懸けられたのを受けて、米国人2人を含むVEN人、コロンビア人らの傭兵部隊が5月VENに侵攻した。大統領を暗殺し1500万ドルを獲得しようと狙ったのだ。だが上陸時に制圧され、死傷者を出し、約60人が逮捕された。    米国は香港の自由を奪いつつある中国を厳しく批判し、世界各国の人権状況について閻魔帳をつけているが、他方でVENの最高級の要人らの命や身柄に懸賞金を懸けている。他国の政治・人権状況に口を挟む資格はあるまい。  米ミネア―ポリスでは5月25日、黒人ジョージ・フロイド氏が白人警官に首を脚で圧迫されて殺され、米国全土に反黒人差別、反人種差別の嵐が巻き起こった。それは世界中に波及し、歴史を遡って差別の象徴を糾弾している。コローナ禍のさなか、フロイド氏の命を礎にして奇しくもしくも生まれた偉大な「人道文化革命」である。  VEN要人に対する暗殺奨励に等しい懸賞金政策を平然として遂行している米政府は、そうした忌まわしい策謀が「人道文化革命」の精神に反することを理解できないようだ。トランプ再選のための画策の一環には違いあるまいが、国務省は堕落したものだ。

「色褪せた国交正常化」ー玖米復交5周年

 キューバ(玖)と米国の国交再開から7月20日で満5年。ラウール・カストロ国家評議会議長(当時)とバラク・オバマ大統領(同)が2014年12月に掲げた「対話による対立事項の解決と建設的関係の構築」は、17年1月のドナルド・トランプ大統領就任により葬られた。  トランプ大統領は17年6月、オバマ前政権が築いた対玖融和関係を後戻りさせ覆す政策を定め、実行してきた。これにはマルコ・ルビオ上院議員をはじめ対玖強硬派の玖系共和党議員らの意向が働いていた。彼らの影響力は、ジョン・ボルトン補佐官がホワイトハウスに居た18年4月~19年9月の期間に増幅した。  ボルトン更迭で一時的にルビオらの影響力は弱まったが、20年になって影響力は回復した。ボルトンールビオ路線の論理は「マドゥーロ・ベネズエラ政権を支えているのがキューバだから叩く」という もの。  トランプ政権が続く限り、対玖締め付けは変わるまい。キューバ政府も国民の多数派も11月の米大統領選挙で、オバマ政権の副大統領だったジョー・バイデン民主党候補が勝つのを期待している。  ただし、トランプが勝ち対玖圧迫政策が続くとしても、玖共産党政権が屈することはないだろう。それは1959年元日の革命以来不変の対米基本姿勢だ。  このような冷え冷えとした状況下に到来した5周年記念日の20日、キューバはワシントンの大使館を通じてコメントを出しただけだった。「ワシントンの中心部に玖国旗が掲げられている。外交関係を維持することに価値がある」という短い内容だった。  その直前の18~19日、玖米間でon-lineによる音楽交流が催された。双方の参加者たちは両国関係活発化を謳い、コロナ禍に対応手段を十分に持たない世界約30カ国で救援活動を展開してきた玖国際医療派遣団に「ノーベル平和賞授与を」と訴えた。  ノーベル賞をの声は世界の広範な地域で高まっている。

ニカラグアでサンディニスタ革命41周年式典

 ニカラグア首都マナグアの「革命広場」で7月19日、ソモサ3代独裁体制を倒したサンディ二スタ革命の41周年記念式典が催された。コロナ疫病COVID19への警戒から、今回はマナグア湖畔の広大な「ヨハネ=パウロ2世教皇広場」(「信仰広場」)でなく、旧大聖堂前の革命広場で実施された。  開場では、学生らサンディ二スタ青年部の若者多数が円形に並んで着席。中央部の貴賓席にダニエル・オルテガ大統領、ロサリオ・ムリージョ副大統領(オルテガ夫人)、閣僚、軍・警察高官らが陣取る。大統領以下、若者たちまで全員がマスクを着けていた。  コロナの状況は 政府発表で感染者2200人、死亡99人、民間団体の集計で感染者8500人、死亡2400人。詩人でもあるムリージョ副大統領が自作の詩を朗読した後、オルテガ大統領が1時間に亘って演説。コロナ感染状況から始めて、医療保健政策、病院建設など医療面を中心に施政の成果を強調した。  演説の終わりの方で、「ニカラグアは米帝国主義に攻撃されている」と口にし、「勇気あるニカラグア人民は屈しない」と叫び、「サンディーノは生きている」「闘いは続く」「自由な祖国を」とスローガンを唱えて締めくくった。  反政府派は数日前からマナグアなどで反政府集会やデモ行進をしてきた。野党勢は今年1月、「国民連合」(CN)を結成したが、参加しない政党もあって、分裂を克服できないままだ。  来年2021年11月7日次期大統領選挙と国家議員選挙が実施される予定。2006,11,16年と3度の選挙で連続3選してきたオルテガが、ムリージョと組んで4選出馬するのは確実。74歳の大統領は勝てば4期目を75歳から80歳までの5年間担うことになる。  反政府派は18年4月、政府の社会保障政策に異議を唱えて街頭行動に出た。政府の腐敗、警察の暴力などにも反対して街頭行動は激化。米国の支援もあって、今日まで街頭行動は断続的に続いている。  これまで街頭行動をめぐる死者は330人ないし570人、負傷者は1500~2800人、逮捕者は600~1500人に上っている。  トランプ米政権は、ジョン・ボルトン安全保障担当大統領補佐官が居た18年に「ベネズエラ、キューバ、ニカラグアは専横のトロイカ」と呼んだが、同3国への締め付け政策をとってきた。

キューバが「社会経済戦略」発表、対ドル課徴金を廃止

 ミゲル・ディアスカネル大統領のキューバ(玖)政府は7月16日、9項目の「社会経済戦略」を発表、そのうちの一項「ドル販売店開設による内需促進」は20日から実施される。この「戦略」はポストコローナ期の経済開発が目的で、「2030年国家経済開発計画」の一環でもある。  9項目: ①中央計画経済体制維持 ②国産保護と輸入依存心一掃 ③主に間接的な市場規制 ④国営、非国営など経済当事部門の連携 ⑤国庫準備外貨蓄積のための米ドル販売店開設による内需促進 ⑥企業部門の自主性最大化 ⑦活動と所有権の形態現代化の促進 ⑧資材と資金の効率化に基づく競争力促進 ⑨環境政策に配慮しての持続可能な開発。  最も重要で具体的な第5項目は、7月20日実施される。全国に主な小売り販売店は4800店あるが、そのうちの軍部系CIMEX傘下などの72店で実施される。食料品、衛生用品、金物が販売される。支払いは外貨口座に基づくキャッシュカードで為される。  米ドルへの10%課徴金は同20日廃止される。この課徴金は2004年、当時のブッシュ米政権が、対玖経済封鎖の強化策としてキューバの米ドルによる国際的決済を禁止したことで、玖側の損失が増えたのを補う措置として導入されていた。  ドルを持つ国民や入国時に両替する外国人旅行者には評判が悪かった。政府は今回、ドル吸い上げ政策強化のため、障害となってきた「10%税」を廃止した。  経済学者やジャーナリトは、第5項目実施を、「玖経済のドル化促進策」と受け止めている。これを皮肉るように、玖要人の肖像をあしらったパロディーの「玖ドル札」が庶民メディアに登場した。  「100ドル札」の顔はディアスカネル大統領、「50ドル」はラウール・カストロ共産党第1書記、「10ドル」はラミーロ・バルデス革命司令官、「5ドル」はギジェルモ・ガルシア革命司令官、「2ドル」は故フアン・アルメイダ革命司令官。  玖経済はコローナ禍で観光産業が大打撃を受け、観光を含む「3大外貨収入源」の「海外からの送金」と「対外派遣医療団収入」も激減、外貨が逼迫し、対外債務返済も停止されている。  頼みの動力源はベネズエラ(VEN)原油だが、マドゥーロ政権の政策失敗や米国の対VEN経済封鎖で石油産業が大きく縮小。対玖原油輸送も滞りがちだ。  キューバの巷には、小売店での生活必需品の払底や、買う際に強いられる長

ベネズエラが米政府と米軍に警告

 ベネズエラ(VEN)のブラディーミル・パドゥリーノ=ロペス国防相は7月17日、同国領海線に沿って展開中の米南方軍(司令部マイアミ)のミサイル搭載駆逐艦1隻に対し、「もし領海内に入ったらFANB(VENボリバリアーナ国軍)は断固対応する」と警告した。  トランプ米政権は11月の米大統領選挙に向けて支持率回復を図るための起死回生策の一環として、既に内外世論に「悪玉」として宣伝し、そうした評価を定着させてきたニコラース・マドゥーロVEN大統領に揺さぶりをかけており、今回新たにカリブ海に駆逐艦を派遣した。  トランプは7月10日、南方軍司令部で演説、「米国はベネズエラとキューバの(反政府派の)ために闘い続ける」と発言した。これを受けてクレイグ・フォーラ―南方軍司令官は駆逐艦を派遣。7月16日には、12海里のVEN領海の境界まで4海里の海域を航行した。  米国は今年5月、昨年初めから傀儡としてきた極右政治家フアン・グアイドーVEN国会議長の率いる反マドゥーロ勢力やドゥケ・コロンビア政権と謀って、傭兵部隊をVEN海岸に上陸させたが、上陸時に制圧され、数人が殺害され、米国人2人を含む約70人が逮捕された。  逮捕者の自供により、この上陸作戦はマドゥーロ暗殺もしくは身柄の連行を目的としたものであることや、グアイドーの関与が明るみに出た。参加した傭兵らは米政府が懸けている巨額の賞金が目当てだった。    しかしVEN政権は慎重だ。駆逐艦の領海接近は明白な挑発行為であり、VENが軍事的対応をとれば、米軍に介入の口実を与えることになるからだ。それはトランプ再選に寄与することになる。マドゥーロ体制が存亡の危機に陥る可能性も否定できない。  マドゥーロ政権は今、キューバ、ロシアと緊密に協議しつつ、米艦の動きを監視している。  ★VEN米関係については、「デモクラシータイムス べえネズエラ」を参照されたい。  

「デモクラシータイムス」でベネズエラを

 ビデオジャーナリズムメディア「デモクラシータイムス」が本日7月17日、ベネズエラ情勢関連の対話映像(45分間)を公開しました。ジョン・ボルトン氏の暴露本『それが起きた部屋:ホワイトハウス回顧録』の中の章「自由ベネズエラ」の要点に私の感想を加えたものです。  「デモクラシータイムス ベネズエラ」で探してください。 もしくは、https://youtu.be/q_glfNojcnA  です。  また、より詳しい記事も、お読みください。  https://note.com/democracytimes/n/n3e337888ccla  20200717  ジャーナリスト  伊高浩昭

エクアドール進歩主義勢力が排除される危機に

 エクアドール(赤道国、略号「赤」)の次期大統領・国会議員選挙は2021年2月7日実施される。国家選挙理事会(CNE)は現在、その準備を進めているが、ラファエル・コレア前大統領が率いる政治運動「社会公約勢力」(FCS)主導の政治運動連合体「希望のための連合」(UNES)が選挙参加資格。だを剥奪される可能性が出ている。  コレアが7月14日明らかにしたところでは、内相と会計検査院長に指示されたCNEは、FCS/UNESを排除する方針を固めたもよう。  前回大統領選挙では、コレアの下で副大統領を務めたレニーン・モレーノが当選、政権に就いたが、モレーノ現大統領はコレアと袂を分かち、米国寄りになって新自由主義に基づく経済再建政策を進めてきた。その過程で、コレア派と厳しく対立、同派は圧迫されてきた。  FCS主導のUNES(ウネス)には、次のような政治運動・組織が参加している。赤女性常設国民会議(FNPME)、赤人民・農業先住民組織連盟(FEI)、農民生産勢力(FRP)、祖国のための国民連立(CNP)、民主センター(CD)、国民愛国戦線(FPN)、スールヘンテ(SULGENTE)。 ▼コレアの政党の選挙参加禁止さる  赤道国高裁は7月20日、ラファエル・コレア前大統領に贈収賄罪有罪で禁錮8年を言い渡した今年3月の第1審判決を是認した。元副大統領らかつての部下ら20人の判決も1審通りだった。最高裁への上告は10日以内。  この日、赤中央選管(CNE)は、コレアの政党「社会公約勢力」(FCS)の政党登録を無効化し、来年2月の大統領選挙など国政選挙への同党参加を不可とした。  併せて「ポデモス」(我々はできる、MNP)、「自由とは人民である」(LEP)、社会正義運動(MJS)の3政治組織に対しても同様の措置をとった。 ▼選挙紛争裁判所が中央選管決定を無効化  赤選挙紛争裁は8月3日、来援の選挙へのFCSなどの参加を禁止した選管(CNE)の決定を覆した。これによりFCSなどは選挙参加が可能になった。 ▼コレアが副大統領候補に  ラファエル・コレア前大統領は8月18日、アンドレス・アラウス大統領候補と組む副大統領の候補になると表明した。両候補とも、FCSなど諸党から成る「民主中央」(CD)から立候補する。 ▼コレア出馬却下さる    赤選管は9月1日、ラファエル・コレア前大統領の副大統

スリナム国会が新大統領を選出

  南米北部大西洋岸のスリナム(旧蘭領ギアナ)の国会(定数51)は7月13日、チャンドゥリカペスサドゥ・サントゥクヒ氏(61)を新大統領に選出した。16日に就任する。同氏は5月25日実施の国会議員選挙で第1党となった野党・進歩改革党(VHP)の指導者。  この国では1980年、軍曹集団が軍事クーデターでヘンク・アーロン大統領を追放。デジ・ボーターセ軍曹が軍事評議会議長に就任した。ボーターセは82年、クーデターの同志だったが政敵になっていた軍人ら15人を殺害し、権力を固めた。  その後、2010年8月から大統領を2期務めてきた。だが5月の選挙で与党・民主国民党(PND)が敗北。国政を40年間牛耳ってきた実力者ボーターセの時代は終わった。  ボーターセ(74)は、82年の政敵殺害事件、麻薬取引、腐敗などで内外から追及され、権勢は徐々に陰りつつあった。

ベネズエラ国会議員選挙は12月6日実施へ

  ベネズエラで7月13日、国会議員選挙の有権者登録が始まった。投開票は12月6日(日曜日)。登録は7月26日に締め切られる。  ベネズエラの新しい国家選挙理事会(CNE=中央選挙管理委員会,計5人)は6月12日、インディラ・アルフォンソ判事を理事長に発足した。同理事長は最高裁副長官、最高裁選挙法廷長などを歴任してきた、チャベス派の法律家。  CNEは6月末、国会議員選挙の投開票日を12月6日と決め、以下の諸点を発表した。定数を従来の167から277へと66%増やす。  うち選挙区は133議席で、130人は記名投票で当選が決まり、残る3人は先住民族割り当て議席。他の144が議席は比例代表制。  87政党・運動・団体が候補者を立てる。内訳は、全国は政党など28、地方は同52、人民・先住民族団体7。  有権者登録に続いて8月10~19日に立候補者登録、その後、資格審査が15回にわたって実施される。10月11日には選挙予行演習、11月21日~12月5日が公式選挙運動期間。  ★ニコラース・マドゥーロ大統領の政権は、穏健派諸野党と対話を重ねて上記の決定に至った。だがフアン・グアイドー現国会議長が所属する暴力的政変肯定路線の極右政党「人民意志」(VP)をはじめ、トランプ米政権を後ろ盾にして政権転覆を謀る右翼・保守の数党は選挙参加を拒み、最高裁選挙法廷の介入を招いている。  11月3日実施の米大統領選挙で現職ドナルド・トランプ氏が敗れれば、グアイドーは虎の威を失った狐に成り下がるだろう。政権派は一気に勢いづく。  

 「現代ラテンアメリカ情勢」から「ラテンアメリカ報告」へ

 私は2018年7月まで「現代ラテンアメリカ情勢」というブログを掲載しておりましたが、2年後の今日、題名を「ラテンアメリカ報告」と変更し、ブログを復活させました。ラ米(ラテンアメリカ)という便利な略語を使用しますので、ご留意願います。  最初の主題は、トランプ米大統領の安全保障担当補佐官だったジョン・ボルトン氏が6月23日に刊行した暴露本『それが起きた部屋:ホワイトハウス回顧録』の中のベネズエラにあてられている一章「自由ベネズエラ」の要旨紹介と、その解説にするつもりでした。  しかし本ブログ復活直前に、このテーマについて、あるユーチューブメディアに出演して語りました。その内容は近日中に公開(報道)されますので、ここでは書きません。  そんなわけで、ブログ復活初日のきょうは、この「復活のご挨拶」だけに留めます。今後、ご愛読を宜しくお願いいたします。  2020年7月12日 ジャーナリスト 伊高浩昭