ボリッチ出現でラ米に新しい政治地図
チリ大統領選挙決選(12月19日)で民社主義の穏健左翼ガブリエル・ボリッチ(35)が次期大統領に決まった。これにより、ラ米諸国の政治潮流は新たに左傾化傾向が顕著になった。
現在、左翼・穏健左翼・進歩主義諸国は;①左翼:共産党独裁キューバ、専横体制ニカラグアおよびベネズエラ②穏健左翼メキシコ、ペルー、亜国、ボリビア③次期穏健左翼政権ホンジュラス、チリの9カ国。
2020年には、コスタ・リカ(2月6日)、コロンビア(5月29日)、ブラジル(10月2日)、ハイチ(日程未定)で大統領選挙が予定されている。ブラジルでは、穏健左翼のルイス=イナシオ・ルーラ=ダ・シルヴァ元大統領の復活当選が確実視されている。ラ米一の大国ブラジルの再左傾化は、ラ米全体に大きな影響を及ぼす。
左翼政権が登場したことのないラ米一保守的なコロンビアでは、前回選挙で存在感を強めた穏健左翼のグスタボ・ペトロに当選可能性が出ている。
伯COL両国で穏健左翼が勝てば、前記9カ国と合わせて計11カ国が左翼・穏健左翼陣営となる。そうなればラ米20カ国の過半数を占め、政治地図は左傾化が鮮明になる。
極右・右翼政権はブラジル、ウルグアイ、パラグアイ、チリ、コロンビア、エクアドール、ホンジュラス、エル・サルバドール、グアテマラ、ハイチ。中道保守政権はコスタ・リカ、パナマ、ドミニカ共和国。
このうちチリとホンジュラスは穏健左翼に移行する。ブラジルとコロンビアには、その可能性がある。
左傾化の原因は、新自由主義経済で拡大した貧困層が2年続くコロナ禍COVID19で痛めつけられたのが大きい。
来年10月までにラ米11カ国が左傾陣営になった場合、それは決して1枚岩にはなりえない。穏健左翼は社会主義革命を目指さず、新自由主義を社会政策拡大によって修正する「人道的資本主義」を目標としているからだ。
穏健左翼はまた、「階級闘争」よりも、人権、女権、環境などに関心が強い。イデオロギーが絡みがちな米中露3大国との関係も是々非々主義で臨む傾向がある。
日本メディアにありがちな「親米・反米」を基準にラ米諸国を観る見方は、米国を起点にしてラ米を捉える点でまず正統的でないうえ、ラ米独自の立場を覆い隠す過ちを犯すことになる。
もし米国の眼鏡でラ米を観るなら、ラ米から米国を眺める視点も欠かしてはなるまい。
左翼・穏健左翼は多様性に富む。保守・右翼陣営も同じだ。多角的、複眼的視野でラ米を眺めることが一層必要になる。
付記すれば、若い新指導者ボリッチは東西冷戦期の体験も記憶もない。自国のピノチェー独裁期については、学習し、追体験している。ボリッチの信条は「多思想・多党制民主」であり、一党体制のキューバや、左翼専横体制のベネズエラ、ニカラグアとは一線を画すだろう。
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