★キューバで革命後初の対政府大規模抗議行動

    キューバ人民衆がついに立ち上がり、政府に抗議する街頭行動に出た。7月11日、日曜日、ハバナ首都圏、西方のピナルデルリオ、中部のマタンサス、東部のサンティアゴと、抗議行動は全国的に拡がった。

   日常生活への抜本的な対策を求めているが、政治改革を要求しているのは疑いない。

   恒常的な経済苦に苛まれてきた社会は、その苦しみがコロナ禍によって輪をかけられ、日常生活の破綻状況が、庶民を立ち上がらせた。無論、「キューバの宿敵」米政府の工作もあるだろう。だが、それだけでは、キューバ庶民は立ち上がらない。切羽詰まったから動いたに違いない。

   各地の病院はコロナ禍で崩壊状態にある。キューバは自力でコロナワクチンを開発しており、うち2種類を実用化している。だがCOVID19の感染者と死亡者は減っていない。

   「コロナワクチンを」、「食べ物を」との悲痛な叫びに、やむにやまれぬ庶民の気持が表れている。このところ連日のように各地で生活苦や薬品欠乏を訴え、フライパンなど金物を叩いて抗議する「SOSカセロラソ」行動が拡がりを見せていた。

   共産党第1書記であるミゲル・ディアスカネル大統領は直ちにラジオ・テレビの全国放送で、「すべての革命支持者よ、共産主義者よ、街頭に出て挑発に対抗せよ。これは戦いの命令だ。街に出よ」と異例の言葉で呼びかけた。

   同時多発的な庶民の街頭行動は、前日10にまでにSNSで、経済苦とコロナ禍で苦しむキューバ支援をという「人道回廊」運動の呼びかけなどを通じ、行動開始への雰囲気が醸されていた。同「回廊」は、コロナワクチン、薬品、食糧などの対玖支援を求めるものだ。政府は受け入れを拒否している。

   抗議デモする群衆からは「自由を」、「くたばれ独裁」の声が聞かれた。大統領以下指導部が、1959年元日の革命後初めての大規模な「対政府」抗議行動が「反政府」行動に転じる危険性を感知しているのは疑いない。

   著名な反体制ブロガー。ジョア二・サンチェスは、大統領は「街に出よう、我々は既に街にいる」と言い、「あたかも内戦を呼び掛けているように見える」と批判した。

   大統領は抗議行動参加者を、「(対米)併合主義者の計画は許さない。米国から帝国から買われ、そのイデオロギー叛乱戦略に乗って、我々の国を不安定化させたい者たち」、「反革命、傭兵」と呼び、「決意、堅固な意志、勇気をもって、反革命の組織的挑発に対処せよ」と国民に呼び掛けた。

   体制支持も過ぎに組織され、ハバナをはじめ各地で対抗デモを展開している。大統領ら指導部も、その先頭に立っている。

   共産党政権が早急に手を打たなければ、また対応を誤れば、「対政府」抗議行動はうねりとなって「反革命・反体制」運動として爆発する方向にある。トランプ政権期の対玖締め付け政策を維持しているバイデン米政権の狙いも、そこにあるのかもしれない。

   ハバナに隣接するアルテミサ州サンアントニオデロスバニョスの若者らがこの日朝、抗議行動を始めたが、SNSを通じて瞬時に全国に抗議行動が波及した。警察、機動隊、内務省軍も出動、弾圧や逮捕も続いている。政府はSNSの通信を遮断した。

   抗議者たちと政府支持派の衝突が各地で起きている。血を流し搬送される市民もいる。政府の強硬策がどのような結果を招くか。事態は複雑化しつつある。

   マイアミのキューバ系社会の中心地「8番街」では市民が大挙して街頭に出、本国のキューバ人たちに連帯している。ラ米各地のキューバ人も同様の行動をとっている。

   キューバではソ連消滅後の経済危機さなかの1994年、ハバナ市内で反政府暴動が起きた。内務省部隊が出動し、故フィデル・カストロ議長がじきじきに現場で対話して収めた。今回は「全国規模」の抗議行動であり、ディアスカネル政権は打つ手が見当たらない状態だ。

   コロナ感染者は7月10日現在、3万2000人。この日だけで7000人弱が感染、47人が死亡したが、これは昨年来の一日の「新記録」だ。 とくに中部のマタンサ州は医療崩壊に見舞われており、通常は対外医療支援に派遣される「ヘンリー・リーブ医療団」が緊急出動した。

★総合雑誌「世界」(岩波書店)2021年7月号「世界の潮」欄掲載の拙稿「<カストロ後>時代のキューバ」を参照されたい。

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