ラ米諸国の「バイデン当確」反応はまちまち

   ジョー・バイデン民主党候補の次期米大統領事実上確定に対するラ米諸国の反応はまちまちだ。トランプ米政権は米国内の分断状況をさらに深い亀裂に陥れたが、ラ米をマドゥーロVEN政権の親派と反対派に分断し、これをラ米政策の中心に置いてきた。

 トランプ政権は昨年1月、暴力的政変肯定路線のVEN政党「人民意志」(VP)のフアン・グアイドー国会議長に「大統領代行」を宣言させ、「暫定大統領」として擁立した。世界190余か国中、50数か国がグアイドーを「承認」もしくは「支持」してきた。

 日本は米国の圧力を受けて「支持」した。だがマドゥーロ政権を承認しており、東京には同政権派遣のセイコウ・イシカワ大使が駐在している。菅首相がバイデンに祝意を表した意図には理論的には、VEN問題を含むトランプ政策の継続に賛同しないことも包含されている。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は7日昼の「バイデン当確」を受けて逸早く祝意を伝え、「対話復活」を呼び掛けた。「再選されたらVENに何かが起きる」と軍事介入を示唆するような脅しをかけていたトランプの後には、トランプ以下の政権は現れないと踏んで、強圧外交でない対話外交をバイデンに期待している。

 グアイドーもバイデンに祝意を伝えたが、自身の政治生命は風前の灯だ。12月6日にVEN国会議員選挙が実施されるが、選挙をボイコットしているグアイドーは議席を失い、無論、国会議長ではなくなる。後ろ盾のトランプが消えれば、政治的孤児になってしまう。

 そうなれば、グアイド―支持の米州「リマグループ」(グリマ)諸国も空中分解するだろう。グリマの要であるルイス・アルマグロOEA事務総長は「トランプの回し者」と見られてきたが、これもまた苦境に陥るだろう。アルマグロの事務局はバイデン当確を受け、「米大統領選挙には特に不正はなかった」と、見当違いの表明をするのが精いっぱいだった。

【★ベネズエラ情勢詳細については、「ベネズエラ大使館ホームページ、ニュース&イベント欄オピニオンの項に転載された拙稿をご参照ください。】

 社会主義キューバは沈黙している。共産党機関紙「グランマ」は8日付紙面に「資本主義は馬鹿げている」と題した論評記事を掲げ、「トランプ主義は資本主義の解体であり、全体主義とファシズム世代の解体である」と強調した。

 ミゲル・ディアスカネル大統領の玖政権は、米国の経済封鎖が撤廃されない限り、真の玖米正常化はないとの立場を崩していない。バイデンが副大統領として仕えたバラク・オバマ前米大統領は2014年末に対玖国交再開に踏み切り、それを15年7月実現させた。

 キューバはオバマ対玖路線の復活を望んでいる。 トランプ政権がほごにした対玖政策を復活させ、それにより当面、在外同胞らからの対玖送金と観光産業が盛り返すのを期待している。あい【ディアスカネル大統領は8日、建設的な対米関係を期待できると語った。】

 ニカラグアのダニエル・オルテガ大統領は来年11月7日、連続4選をかけた大統領選挙を迎える。バイデンはニカに対しては、政経両面の締付け政策を維持すると見られており、オルテガ政権は楽観できない。

 メキシコのAMLO大統領は、トランプ派の訴訟などが片付いて公式に次期大統領が決まるまでは祝意は表明しない、との立場だ。AMLOはトランプ とは良好な関係を維持してきた。米国と3200キロの国境線を共有する隣国のため、「軽はずみな発言」は控えるのが得策との慎重な立場を崩せないわけだ。

 ニカラグアを除く中米諸国は、麻薬取締り、法治強化、腐敗取締りなどでバイデンから厳しく迫られるのを警戒している。だが祝意は表明している。

 ブラジルの極右ジャイール・ボウソナロ大統領は公然とトランプ再選待望論を唱えていただけに、沈黙している。あるインタビューで、「ラ米では左翼が伸張している。22年の次期大統領選挙に出馬するかどうかは、まだわからない」と語っている。

 ブラジル左翼・進歩主義勢力の旗頭ルーラ元大統領は、「世界は安堵を息をついている」と表明、バイデン当確を歓迎した。ボリビアのエボ・モラレス前大統領は、「人種主義とファシズムの敗北だ」とバイデン当確を評価している。

 

 


 



 

 

 

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