清貧政治家ホセ・ムヒーカがウルグアイ政界を引退

  「清貧大統領」、「ネクタイをしない大統領」として世界的に知られ、「ペペ」の愛称で親しまれたウルグアイのホセ・ムヒーカ元大統領(85歳、任期2010~15、拡大戦線)が10月20日、上院議員を辞任、政界を引退した。

 この日、上院は臨時本会議を開き、フリオ=マリーア・サンギネッティ元大統領(84歳、任期1985~1900、95~2000、コロラード党)も上院議員を辞任した。だがサンギネッティは政治活動は国会外で続けるという。

 2人は、主要各党代表の礼賛演説を受けて演壇に立ち、ムヒーカは「上院議員であることは事務所に閉じ籠るのではなく、国内各地を回って人々と話し合うことだ。だが高齢とコロナ疫病(の危険性)により引退せざるを得なくなった」と、ユーモアを込めて述べた。

 例によって人生哲学を語り、「人生の勝利とは単に勝つことではなく、転ぶたびに立ち上がり再開することなのだ」と強調した。過酷だったゲリラ時代に痛めつけられた心身を強靭にして政治家になり、大統領に上り詰めた人生体験に根差している。

 「憎悪は愛と同じように情熱だ。だが愛が創造的であるのに対し、憎悪は破壊的だ」とも指摘した。「私は、多くの欠点がある情熱家だ。だが私は何十年もの間、自分の農場で憎悪は栽培しなかった。人生を律する厳しい教訓に学んだからだ。それは、憎悪がわれわれに客観性を失わせ、愚かな結果を招くということだ」

 支配体制や軍部への憎悪がゲリラ活動の原動力であり、ゲリラへの一層激しい憎悪を体制と軍部に引き起こしたことに触れたのだろう。

 「政治に継承はない。あるのは大義だ。すべては去るが、残る大義があり、それは変化ということだ。唯一の大義は変革だ。生物学は変化(死、世代交代)を促す。だが新世代に機会を与える方策を講じなければならない」

 「継承はない」には、国会議員の世襲などはもってのほかということが含まれているはずだ。政治は決して「家業」ではなく、家業化すれば堕落する。日本の政治を見るまでもなく明らかだろう。

 ムヒーカは昨年10月、上院議員選挙に当選、通算3期目に入ったが、今年9月27日、引退を表明していた。

 一方のサンギネッティは、1985年に民政移管を果たした大統領として知られる。だが軍政期におびただしい数の人道犯罪を犯した軍部や警察の責任の大部分を免罪、禍根を残した。

 付記すれば、日本でムヒーカは「世界でいちばん貧しい大統領」という誤ったレッテルを張られている。ムヒーカは首都モンテビデーオ郊外に農場を持ち、それなりに豊かな暮らしをしている。心清らかに質素に生きる「清貧」がムヒーカの信条であり、日本のテレビや出版社の「貧しい」という物資的貧しさを示唆する商業目的のレッテルは完全に的外れだ。

 

 


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