チリで先住民族マプーチェの歴史的問題が再燃

  スペイン植民地時代に虐殺・制圧され、独立後も200年に亘って弾圧されてきたチリ先住民族マプーチェが、奪われた土地の奪回を究極の目的として続けてきた闘争が深刻な問題として、今また同国中南部のマプーチェ居住州ラ・アラウカニアで浮上している。

 マプーチェの「マチ」(シャーマン、呪術師)セレスティーノ・コルドバ(33)は、2013年1月ドイツ系移住者農業者夫婦が自宅で死に至った放火事件で「放火致死罪」に問われ、禁錮18年の刑に服役中。

 コルドバは5月上旬、刑務所はコロナ禍で危険であるとして、疫病が終息するまで自宅軟禁にしてほしいと訴え断食を開始、8月初め断食95日目に入った。

 この放火事件は、08年にカラビネロス(準軍警察)に射殺されたマプーチェの大学生
マティアス・カトゥリレオの追悼と抗議の行事に参加したマプーチェたちがドイツ系農業者の自宅敷地内に入ったことから起きた。ドイツ系の主(75)は銃で対応、マプーチェ側は放火したとされる。

 駆け付けたカラビネロスは事件現場から2km近く離れた地点を、「銃創から血を流しながら歩いていた」コルドバを容疑者として逮捕、主犯として「テロリズム取締法」により起訴した。

 同法はピノチェー軍政下にできた悪法で、民政移管後は主に<マプーチェ取締法>として用いられてきた。民主派の4大統領5政権は、この法律の廃止を求められながら実行できなかった。

 7月末から今月初めにかけアラウカニア州内で、コルドバ釈放を求めるマプーチェのデモ隊と人種主義の右翼グループが衝突、負傷者が出た。刑務所では、他のマプーチェ受刑者たちがコルドバ解放を求め、断食して連帯している。

 チリ控訴裁はコルドバの自宅軟禁許可の仮処分訴えを却下。先住民族差別を禁止する国際労働機関(ILO)条約169条の実施を求める弁護団は、最高裁に上告した。コルドバ問題が大きくなったため、チリ国会は急遽、マプーチェ問題の審議を開始した。

 一方、国連人権高等弁務官事務所ラ米担当官はチリ政府に対し、対話による早期解決を求めている。現在の国連人権高等弁務官はミチェル・バチェレ―前チリ大統領。

 マプーチェ問題は、歴史的負債としてチリに重くのしかかっている。チリのマプーチェ人口は216万人で、同国総人口の約12%を占めている。スペイン系など欧州系とマプーチェの混血はかなり多い。

 アンデス山脈東側の亜国パタゴニア地方にも、チリほど規模は大きくないがマプーチェ社会がある。ドキュメンタリー映画の監督ミリアム・アンゲイラは、マプーチェを重要テーマとして映画化するなど、マプーチェ社会に関与している。

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