ボリッチが当選、チリ民主が極右を阻止

   チリ民主は愚かではなかった。極右の政権奪取を阻み、新自由主義の行き過ぎを正し社会政策充実を唱える若い政治家を、次期大統領に選んだ。

   チリ大統領選挙決選は12月19日午後7時半、開票率50%段階で穏健左翼ガブリエル・ボリッチ(35)54・7%、極右ホセ=アントニオ・カスト45・2%で、優劣差は9・5ポイントに開いた。★カストは敗北を認め、ボリッチを祝福した。

  世論調査機関CADEMの専門家は18日、決選前1週間にボリッチ(拡大戦線所属、尊厳連合候補)が8ポイント優勢として、ボリッチ勝利を予測。それを上回る得票差がついている。

  11月21日の第1回投票では、得票1位のカストが2位のボリッチに2ポイント差をつけたが、決選ではボリッチが大差で逆転勝利した。

  ボリッチ勝利は、極右カストが勝てば「ピノチェー独裁回帰」となりかねないと強く懸念した有権者の多数派が危機感を抱き、ボリッチ支持に勢いをつけた結果だ。

  カスト(共和党所属、キリスト教社会戦線候補)も劣勢を予知、両候補同士の公開討論会などで、フェイク情報を交えてボリッチの「麻薬疑惑」などを追及。その激しいネガティヴ攻撃に焦りの色を見せていた。

  ピノチェーの妻ルシーア・イリアルト(98)は、決選直前の16日死去。カスト陣営は、ルシーアの死が「哀悼票」となってカスト支持を固めると期待したが、既に「ピノチェー票」は早くからカストの固定票に組み込まれており、「哀悼票」にはならなかった。

  ボリッチ当選で、新憲法起草中の制憲会議(CC)は「ボリッチ政権発足後の来年9月の国民投票に向けて、起草作業を進めることになった。カストは1980制定の軍政憲法維持を主張。カストが当選すれば、CCの起草作業の行方に暗雲が立ち込めると懸念されていた。

  だが、国会上下両院では、左右両派の議席数が接近しており、ボリッチ次期政権は、カスト陣営やピニェーラ現政権諸党との「対話と理解」が不可欠となる。

  南米では来年10月、ブラジル大統領選挙が予定され、穏健左翼のルーラ元大統領の復活当選が確実視されている。また5~6月のコロンビア大統領選挙では、穏健左翼のグスタボ・ペトロに当選可能性が出ている。

  チリでのボリッチ勝利は、南米左翼・進歩主義陣営に弾みをつける。だがボリッチはキューバ、ベネズエラ、ニカラグアの「ラ米伝統左翼3国」とは一線を画す「若く新しいラ米左翼」になるのを窺わせる。 

▼大統領が祝福

  セバスティアン・ピニェーラ智大統領は12月19日午後8時すぎ、ガブリエル・ボリッチ候補に祝電を入れ、「あなたがチリのために良き政権をつくるのを皆が期待している」と伝えた。ボリッチは来年3月11日、満36歳のチリ史上最も若い大統領になる。任期は4年。

  開票率83%段階で、ボリッチ55・52%、カスト44・48%。差は11・04ポイントに開いた。さらに92・12%段階では、ボリッチ55・73%、カスト44・27%で、差は11・46ポイントに開いた。

  投票率は50%前後と見られている

▼学生運動から政界入りしたクロアティア系ボリッチ

  ボリッチはクロアティア系チリ人。出身地プンタアレナス市の英国系学校で初等・中等教育を受け、大学はサンティアゴのチリ大学法学部に進学。2011年の学生運動で指導者として頭角を現し、マゼラン海峡に面したプンタアレナスを州都とするマガジャネス州選出の下院議員になる。現在、その2期目にあった。

  2019年10月の学生蜂起時には、政権党連合中核の右翼UDI(独立民主同盟)と話し合い、新憲法制定の是非を問う国民投票実施によって事態を収拾する和平合意を導いた。

  30代半ばと若いが、熟達した政治技術を身に着けている。

  決選でカスト陣営は形振り構わずフェイク運動、ネガティブ攻撃を仕掛けたが、あっさりと退けた。チリに部名移住したカストの父親はナチ党員の兵士だったが、それを隠すカストをボリッチは敢えて攻撃材料とせず、正面から政策論争を仕掛けた。

  専門家は、2回の公開討論でボリッチが水をあけたと見ている。

【マガジャネスという州名は、ポルトガル人航海士フェルディナンド・マガリャンイスの姓のスペイン語撥音。日本語ではマゼラン】

  

  

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