ハイチ大統領暗殺は麻薬取引取締りが原因か

     今年7月7日に暗殺されたハイチのジョヴネル・モイーズ大統領は、なぜ殺されたのか。この最大の疑問を解く有力な「仮説」が12月14日、NYT紙報道で明らかにされた。

    それによると、モイーズ大統領は政財界、治安部隊に麻薬汚染(腐敗)が拡がっている事実を知るや、どんな大物でも容赦するなと部下らに命じ、麻薬取引に関与する可能性のある者たちの名簿を密かに作成した。その名簿をDEAに渡そうと決意していた。

    名簿の筆頭には、モイーズを後継者に据えたミシェル・マルテリー元大統領の義兄弟であるシャルル・サンレミの氏名が記された。サンレミは強大な勢力を誇り、モイーズ政権の重要人事を決めるほどだった。名簿には、モイーズの警護警察隊長ディミートゥリ・エラルの名もあった。 

    ハイチは、南米南部と米国に間にあるカリブ海の島国で、コロンビアやベネズエラからコカイン、ヘロインなど高価な麻薬が大量に運び込まれていた。米DEA(麻薬捜査局)はサンレミらを麻薬犯罪関与人物としてマークしていた。

    DEAは暗殺の数週間前(今年6月ごろか)、ハイチ北部にある複数の秘密滑走路が、南米南部から麻薬を運んで来る小型機の離着陸に使用されていると、モイーズに通告した。

    モイーズは直ちに部下らに、到着する小型機を破壊するよう命じた。それが引き金になったのかどうかは不明だが、モイーズは、首都ポルトープランスの私邸で、コロンビア人コマンドに拷問された後、銃撃され殺害された。

    コロンビア人コマンドに命令していたハイチ人ジョセフ・フェリックス・バディオの名も名簿に記載されていた。バディオは暗殺事件当時、モイーズ邸付近にいた。

    大統領が暗殺されたのは7日未明だったが、モイーズと共に寝室にいた妻マルティーヌも銃弾数発を浴び、血だらけになって床に伏せた。彼女は、死んだふりをして生死を確認しようとしたコマンドを欺き、辛くも生き延びた。

    マルティーヌは救助され、マイアミに急送され入院、一命をとりとめ、7月に帰国し、夫の国葬に参列した。

    マルティーヌは捜査当局に、コマンドは夫を殺した後、私邸内の夫の執務室で何かを探し回り、部屋中に書類をまき散らして引き揚げた、と証言している。当局は、コマンドが問題の名簿を探していたと見ている。

    逮捕されたコマンド18人は事件後5カ月以上経つのに依然、起訴されていない。当局が同18人を拷問し、名簿を探すよう命じられていたとの供述を引き出した事実も、NYTが明るみに出した。彼らが起訴されていないのは、拷問が原因である公算が大きい。

    マルティーヌは何度か、「夫はハイチのために尽くそうとしたため暗殺された」と謎めいた発言をしていたが、それが麻薬関与者の名簿作成や麻薬取引取締りだとすれば、納得がゆく。

     バディオが暗殺事件前後、携帯電話でアリエル・アンリ現暫定首相と何度も通話していた事実も把握されている。だが、アンリの事件関与は解明されていない。

▼油槽車爆発で75人死亡

    ハイチ北部のカパイシアン市で12月14日夜、油槽車が爆発、市民75人が死亡した。負傷者は数十人に及ぶ。アンリ暫定首相は、3日間の国喪を宣言した。

 

 

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