チリ北部でベネズエラ難民が排除さる

      ラ米諸国に流入しているベネズエラ難民は各国で暴力の犠牲者になったり、犯罪容疑者として拘禁されたりしているが、9月25日、チリ北部のタラパカ州都イキーケで一群の難民が排除される事件が起きた。

  同州のホセ=ミゲル・カルバハル知事は同日、イキーケ市内ブラジル広場でテント生活をしていたVEN人難民約100家族が約5000人の地元チリ人デモ隊に排斥された。治安警備隊が出動し、難民が暴力に晒されるのを防いだが、現場に残された小型テントや携行品などは1カ所にまとめられ焼かれた。一部始終は、動画で報じられている。

  デモ参加の住民らは、「我々は反移民でも反異邦人でもない。ただ秩序ある暮らしを守りたいだけだ」と語っている。

  知事は、排除された約100家族は20家族ずつに分けられ、1家族に1テントがあてがわれ、市内に分散して滞在していると明らかにした。難民たちは南下して首都サンティアゴに向かう意思を明らかにしている。

  知事は、今回の出来事発生に際し、州政府もイキーケ市も逸早く情報を得ることができず、難民の一時的な分散滞在地も伝えられなかったと述べ、チリ政府に不満を表した。州にはVEN人だけでなくハイチ人やコロンビア人の難民も到着しており、対処すべき予算も物資も不足しているとし、積極的に州財政を支援しない政府を批判した。

  VEN人難民は、ボリビア南西部の標高4000mのアンデス高原から国境を越え、チリに密入国し、アタカマ砂漠を越え、イキーケなど太平洋岸の都市に到着している。密入国や輸送には、「コヨーテ」と呼ばれる業者が法外な現金と引き換えに介在している。

  国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、チリにはVEN難民45万人がいる。また研究者鈴木美香の論文によれば、21年5月現在、世界にVEN難民564万人がおり、それはVEN人口の19・7%に当たる。

  国連の難民人権担当者は25日、イキーケでの事件について、「(難民に対する)受け入れがたい恥辱事件だ」と非難した。 

  在智ハイチ人社会からは、「チリ人の多くは良い人だが、政府は人種主義、階級主義、占領主義だ」、「多くのハイチ人が定住しかけていたチリを去ってしまった」との声が聞かれる。

★参考資料:鈴木美香「見直しを迫られるトリニダード・トバゴの移民・難民政策ーーベネズエラ移民・難民危機への対応からみた問題点ーー」(日本ラテンアメリカ学会の2021年研究年報41号掲載)

▼VEN政府が帰国促す

  ベネズエラの二コラース・マドゥーロ大統領は9月25日、イキーケ事件を受けて、チリにいるVEN難民を帰国させる「祖国帰還計画」を適用するよう命じた。

▼チリ大統領が事件を糾弾

  セバスティアン・ピニェーラ大統領は9月27日、訪問先のウルグアイで声明を発表、イキーケでのVEN難民迫害事件を「無処罰のまま放置できない犯罪行為だ。処罰されるべきだ」と述べた。


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