ハイチに戒厳令、暫定政権首班は誰か不明

       ハイチのクロード・ジョセフ暫定首相は7月7日記者会見し、ジョヴネル・モイーズ大統領の同日未明の暗殺を受けて、戒厳令を発動したと発表した。当面は15日間の予定。公官庁などに半旗が掲げられ、国喪に入った。

  国民は自宅蟄居を求められ、自動車の通行は制限された。ラジオ・テレビは通常の番組を差し替えるよう求められた。

  街には重武装の軍隊と警官隊が出動。平常はごった返している首都ポルトープランスをはじめ主要都市の街から人影がほとんど見られなくなった。その映像が伝えられている。

  隣国ドミニカ共和国(RD)の政府は、ハイチとの国境を閉鎖した。ポルトープランスのトゥサン・ルヴェルチュール国際空港も閉鎖された。  

  同国駐米大使によれば、暗殺時に銃撃され重傷を負っていたマルティーヌ夫人はマイアミの病院に緊急搬送された。命に別状はない。大統領夫妻の子供たちも米国の保護下にあるという。

  暫定首相はアンソニー・ブリンケン米国務長官と電話で話し合ったことを明らかにした。記者会見に同席した警察長官は、容疑者集団の4人を射殺し、他の2人を逮捕したと発表した。一味に拉致されていたモイーズ邸警備の警官3人は解放された。

  差し当っての最重要問題は、誰が暫定大統領になるかだ。憲法規定では、最高裁判所長官に継承権があるが、ルネ・シルヴェストル長官はコロナ疫病COVID19で死去したばかりで、まさに7日に葬儀が予定されていた。

  ジョセフ暫定首相の暫定大統領就任については、国会の承認が必要だが、国会は2020年初めから閉鎖されている。

  モイーズの下で起草されていた新憲法は上院を廃止して一院制国会にすることや、首相の地位の廃止が盛り込まれている。

  上下両院議員選挙と新憲法承認の是非を問う国民投票は9月26日に予定されているが、実施されるか否かはわからなくなった。モイーズは新憲法を制定し、上院を廃止してから国会議員選挙を実施するつもりだったが、その目算もくるっていた。

  20世紀初めからフランスに替わって事実上の宗主国となってきた米国のジョー・バイデン大統領は、モイーズ暗殺の報に「衝撃を受け悲しみに暮れている」と述べ、ハイチへの支援を申し出た。

  米国は20世紀に2度、海兵隊を送り込んでハイチを占領したり、デュヴァリエ父子長期独裁体制を支え、不要となった息子ジャン=クロード・デュヴァリエ大統領を追放したり、2004年には米国の意向に従わなかった当時のジャン=ベルトゥラン・アリスティド大統領を、仏加両国と謀って航空機でアフリカに連行し放置し政権を潰したりした。

  このような歴史的因縁により、ハイチには対米警戒心が強い。

  隣国RD(ドミニカ共和国)、海峡越しの西の隣国キューバ、カリブ海南岸の大国ベネズエラ、ハイチに強い影響力を持つカナダをはじめ、メキシコ、アルゼンチン、ボリビア、チリ、コロンビア、ジャマイカ、ノルウェー、スペイン、英国などの首脳や政府から、暗殺事件糾弾と弔意が表明されている。

  ペルー次期大統領有力候補ペドロ・カスティージョも哀悼の意を表し、暗殺を糾弾した。ロシア政府は、外国の干渉なしに事態が終息するのを願うとして、米政府を牽制した。

  国外亡命中のハイチ知識人は、「祖国は1804年のフランスからの独立以前のナポレオン支配期のような封建時代そのままの精神状態に置かれたままで、民主精神など程遠い」と、フランスTVの分析番組で嘆いた。

  ハイチが加盟する米州諸国機構(OEA)とカリブ共同体(カリコム)は緊急遠隔会合を開き、ハイチ情勢をめぐり協議した。


 

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