ペルーのペドロ・カスティージョ新大統領が就任

     ペルーのペドロ・カスティージョ新大統領(51)が7月28日就任した。任期は2016年までの5年。この日はペルー独立200周年記念日で、国中が29日まで2日間の祝日で歴史を味わっている。中央銀行は記念に、解放者ホセ・デ・サンマルティンの肖像入りの1ソル銀貨を発行した。

  国会議事堂での就任式では、マリーアデルカルメン・アルバ新議長がカスティ―ジョに大統領の襷をかけた。ギド・べジ―ド首相(政権党PL国会議員)は29日、対西独立戦争の地アヤクーチョで就任。エクトル・べハル外相ら他の閣僚は連休明けの30日に就任する。

  新大統領は就任演説で、まず「神、私の家族、ペルー人兄弟姉妹、農民、先住民、ロンデロ(自警団員)、漁民、教員、専門職、青少年、女性に誓う。ペルー国民、腐敗無き国、新憲法のために誓う」と宣誓した。

      「ペルー史上初めて、長らく虐げられてきた農民の大統領が生まれた。この感激を完全に表すことはできない」。この言葉から語り始めた。

  農村の貧困家庭に始まる自身の人生を振り返り「大統領になれた」と語り、これまで忘れられてきた農村など最も疎外されてきた人々のために尽くすと誓った。とくに教育重視策をとることを示唆した。

  公約の改憲については、合法性と現行憲法を尊重すると前置きしつつ、関連法案を提出すると明言した。1993年の現行憲法は憲法を起草する制憲議会を認めておらず、同議会開設を可能にする改憲がまず必要になる。

  カスティージョは、「独立200周年を期して開設されるべき制憲議会は多民族主義、人民大衆的、ジェンダー平等でなければならず、先住民族もアフリカ系市民も含まれる」と述べた。

  大統領は段落を変えて、学びも働きもしていない若者は「自発的兵役」に参加し、職業訓練を受けるなどして未来に備えるべきだ、と述べた。これは若者の失業と犯罪への対策でもある。

  また、国家警察(PNP)が治安維持の柱だが、犯罪激発のため警察だけでは十分ではない、と指摘。農村部の治安組織「ロンダ」(自警団)を治安機関に組み入れる考えを示した。都市部でもロンダを組織するのか否かは不明。

  外国人犯罪者は72時間以内に出国せよ、と異例の「命令」も発した。

  経済関係では、初年度に雇用100万人分を創設するとし、そのためには公共投資が必要だと述べた。

  私有財産を尊重し、企業国営化も為替管理もしないと約束した。だが価格統制はありうるとした。

  コロナ禍対策を強化、飢餓を一掃、「社会鍋」の制度化、住宅建設を促進、環境重視、インターネットを権利として拡充、大学をはじめ高等教育の無料化、教員待遇向上を謳った。公務員を先住民語で対応できるようする方針も明らかにした。

  さらに投資は文化や環境を守り促進し、雇用や労働者の収入を増やし、地元経済の活性化に貢献するなど社会的に寄与しなければならないと強調した。

  とくに最大収入源である鉱業については「地下資源の収奪をなくし、主権を回復する」とし、「秩序を整える」と述べ、外資に対する国の収益取り分を増やすなど国益重視の民族主義的政策をとる方針を示した。

  ある世界最大級の外資鉱業会社はペルーで今年前半だけで850億ドルの利益を挙げたとされているが、このような現状が規制されることになるはずだ。 

  カスティージョはさらに、従来の大統領政庁(政府宮殿)について、「征服者ピサーロの邸宅だった建物から施政するわけにはいかない。植民地支配との紐帯を断ち切るため、その象徴を破壊せねばならない」と強調した。

  政庁建物には今後、新しい文化省が入り、歴史博物館の役割を持つことになる、と明かした。「われわれの起源から現代までの歴史を示す場となる」として、大統領自らの出自である「インカ時代」など先住民族の歴史を重視する意図を忍ばせた。

  さらに文化省名を、従来の「ミニステリオ・デ・クルトゥーラ」から「ミニステリオ・デ・クルトゥーラス」(諸文化省)と改めるとし、「様々な文化を認め、先住民族が文化活動に参加するようにせねばならない」と明言した。

  これは隣国ボリビアのエボ・モラレス元統領らが国策で定めた「多民族多文化主義」に倣ったもの。この日カスティージョがまとった黒の詰襟服も、モラレスそっくりだ。

  モラレスは招かれてリマに滞在中で、政権党PL(自由ペルー党)党首ブラディーミル・セローン書記長と会食会談。同党国会議員団とも会合し、「多民族主義の米州を創ろう」と呼び掛けた。カスティージョとも会談する。

  ただしカスティージョは、普段から愛用し、選挙戦中も当選後も外さなかった白の農民帽を被り続けている。この帽子は出自と農村重視策を象徴する重要な標章であり、新自由主義経済路線への対抗姿勢も秘められている。

  カスティージョは就任式でも、スペイン国王を含む外国首脳との会談でも帽子を脱がなかった。

  就任式にはボリビア、エクアドール、コロンビア、チリ、アルゼンチンの大統領、ブラジル、パラグアイの副大統領、スペイン国王フェリーペ6世、エボ・モラレス元ボリビア大統領、ベネズエラ、キュ―バなど各国外相らが参列した。

  米国からは、カスティージョと同じく小学教師の経歴を持つ、プエルト・リコ出身のミゲル・オルドーナ教育長官が出席した。アンソニー・ブリンケン米国務長官は26日、カスティージョに電話で祝福し、「べネズエラ、キュ―バ、ニカラグアに関し、建設的役割を果たすよう期待する」と伝えている。

  これは「(3国のように)左傾化するな」との警告でもある。カスティージョは、「ベネズエラもキューバもない。あるのはペルーだ」との立場だ。

▼ペルーとボリビアが合同閣僚会合再会へ

  ペドロ・カスティージョ大統領は7月28日、ボリビアのルイス・アルセ大統領と会談、両国合同閣僚会合の再開で合意した。

▼早くも首相に異論

  カスティージョ政権に協調するモラード党は7月29日、アヤク―チョ市で同日就任したギド・べジ―ド首相について、極左勢力を礼賛した人物であり、彼が首相では「合意重視の政権」を謳う新政権は立ち行かなくなる、と強い異議を表明した。

  「身内」からも異論が出て、経済・財務相と法相は就任を辞退した。

  決選投票後、当選が決まるまで、ケイコ・フジモリ陣営による長期の異議申し立て戦術で、政権担当の準備が疎かになったのは否めない。

▼メキシコが連帯

  独立200周年を9月に迎えるメキシコは7月28日、同200周年のペルーに連帯し、首都メキシコ市の憲法広場(ソカロ)周囲の建物、革命記念碑、ローマ型水道遺跡にペルー国旗の色である赤白赤の電飾を施し、これを灯した。

▼ 「遮断壁になる」とケイコ

  ケイコ・フジモリはP・カスティージョ大統領が就任演説で改憲意志を明言したことに触れて7月28日、「我々FP(人民勢力)は改憲を防止する遮断壁になる」と述べた。だが、教育、保健、福祉など国民の為になる政策には違いを超えて協力する、と明言した。

  

  

 

  

  

  

  

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