2021年のラ米展望

 謹賀新年2021.野蛮な人間格差の暴虐を超えて、共感と連帯の心が拡がることを年頭に祈ります。伊高浩昭

▼社会主義キュ―バ

 ラ米の2021年は、元日のキューバ革命62周年行事に始まった。国立バレエ団はアリシア・アロンソ劇場で記念公演を開始した。ミゲル・ディアスカネル大統領は、記念日を祝い、依然続く「革命過程」にける国民の「閃き」を讃えた。

 この日、通貨一本化政策が施行され、国内通貨はペソ(CUP)だけとなり、兌換ペソ(CUC)は公式通貨ではなくなった。ただしCUCは今年前半にペソか外貨口座に交換できる。また全国の指定店舗で同期間、使用できることになった。

 交換率は24ペソ=1米ドル。革命以来、国営部門では1ペソ=1米ドルという途方もないペソ高レートだったが、この特別レートは廃止され、1ドル=24ペソに統一された。

 だがパリクラブ諸国は実勢を、1ドル=40~50ペソと見て、ペソ切り下げが必要と主張している。2017年時点の玖対外債務は180億ドル。今の財政赤字はGDPの18~20%に及ぶと見られている。

 最低賃金も元日に2100ペソ(87・5ドル)に引き上げられた。給与は32段階に分かれており、最高は9510ペソ(396ドル)。大統領や共産党第1書記ら最高幹部の給与額は明らかにされていない。

 ロシア革命体制は74年で崩壊した。中国共産党政権は71年続いてきた。62年続いた玖体制は経済危機にあり、どこまで続くのか。当面は、今月20日に発足するバイデン米政権の対玖「太陽政策」に経済封鎖緩和の期待をかけている。

 4月16~19日には、ハバナで第8回共産党大会が開かれ、高齢のラウール・カストロ第1書記が引退する。これによりカストロ兄弟が占めてきた最高指導部は、ディアスカネル次期第1書記を頭として若返る。

  アフリカ系宗教サンテリーアを司るヨルバ人の祈祷師は恒例の年頭予言で、「官憲侮辱が増える」と言い、反体制言動が一層活発化するとの見方を示した。また「不法出国者が増え、(小舟転覆などによる)死者も増える」と述べた。

 反体制派ジャーナリスト、ジョア二・サンチェスは元日、「カストロ体制は完全に化石化している。玖革命モデルは今や、弾圧になった」と指摘した。

▼バイデン米政権発足

 1月20日、ジョー・バイデン大統領が就任する。米国は反知性、虚言、虚構、唯我独尊の孤立主義から正常な方向に動く。だがトランプが植え付けた「ポスト・トゥルース」(真実の後の状況)は昨年の大統領選挙を境に米国民を分断した。この状況は簡単には収まらない。

 トランプの分断政治の最大の犠牲者はベネズエラだった。「グアイドー暫定政権」という虚構がでっちあげられ、マドゥーロ政権は特に過去2年間、痛めつけられた。その真相の一部は、ジョン・ボルトン元トランプ補佐官の著書にも細かく描かれている。

▼VEN新国会発足

 バイデン登場に先立つ1月5日、マドゥーロの政権党連合が議席の9割以上を握る国会が発足する。これにより2016年から5年間続いた政権と国会の捩じれは解消される。

 だが大産油国でありながら原油生産が落ち込み、トランプ政権による厳しい経済封鎖もあって、VEN経済は極悪の状態にある。マドゥーロ体制は、バイデン米政権と対話し、封鎖緩和の実現に期待している。

▼核兵器禁止条約発効

 1月22日発効する。ラ米・カリブ諸国の批准が物を言った。世界が核戦争の瀬戸際に立たされた1962年20月の玖核ミサイル危機の経験から生まれた「ラ米・カリブ核兵器禁止条約」(68年発効、通称トラテロルコ条約)が基盤にある。

▼エクアドール大統領選挙

 2月7日実施の赤道国選挙の展望は、年末の本ブログ記事で執筆済みであり、それを参照されたい。ラファエル・コレア前大統領派の復権の可能性が膨らんでいる。

 ▼ペルー大統領選挙

 4月11日実施される選挙の詳細も年末執筆済み。参照されたい。焦点の一つは、3度目の出馬となるケイコ・フジモリ候補がどこまで票を伸ばせるかだ。

▼チリ制憲会議議員選挙

 昨年の国民投票で決まった民主憲法制定に向け、その草案を策定する制憲会議議員155人を選ぶ選挙が4月11日実施される。議長を除く154人は男女半々となる。これはピノチェー政権期の1980年委制定された現行の軍政憲法が男の視点から書かれたのを反省しての、女性の視点を大幅に取り入れる措置。

▼ハイチでは国民投票と大統領選挙

 4月25日、新憲法制定のための国民投票が実施される。9月19日には大統領・国会議員選挙、11月21日には同決選投票が行われる。

(1月7日発表されたが、ジョヴネル・モイーズ大統領の政権は不安定であり、予定通り実施されるか否かは不確かだ。野党勢力は同大統領の任期は2月7日に切れると主張、大統領側は任期は「政治危機乗り切りのため1年延長され、22年2月7日まで続く」と主張している。)

▼ニカラグア大統領選挙

 11月7日のこの選挙は、ダニエル・オルテガ大統領の連続4選を決める。バイデン政権がどう対応するか、トランプ政権が支援してきた国内反政府勢力がどう抵抗するか、が鍵となる。

 政権党FSLN(サンディニスタ民族解放戦線)のオルテガ党首が勝つのは自明の理だが、どこまですんなりゆくか、見通しはつかない。

▼ホンジュラス大統領選挙

 11月27日実施される。国民党(保守・右翼)、自由党(保守)、「自由と再建」党(左翼)の3主要勢力の争い。3党は3月14日、予備選挙で公認候補を決める。

   現職のフアン・エルナンデス大統領(国民党)は2013年の選挙に勝ち政権に就き、規則を強引に替えて17年も出馬、不正選挙で政権に就いた浮いた。21年の3選出馬をも画策したが、これには失敗した。 

  「自由と再建」党からは、2009年に米国絡みのクーデターで追放されたマヌエル・セラヤ大統領の夫人シオマラ・カストロが予備選に臨む。

▼経済

 ラ米経済は2020年、7・7%縮小した。その反動で21年は1~3%成長すると見られているが、すべてはCOVID19次第だ。キューバ、ドミニカ共和国をはじめとするカリブ海諸国の多くは観光が基幹産業で、疫病の猛威が収まらなければ、今年も経済は低迷する。

 疫病は多数の困窮者と少数の富裕者の格差を大幅に拡大させた。窮乏者が政治を変える圧力になる可能性は十分にある。

▼独立200周年

 メキシコおよび中米5カ国(グアテマラ、エル・サルバドール、ホンジュラス、ニカラグア、コスタ・リカ)は9月、スペインからの独立200周年を祝う。

 

 


 


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