伊高浩昭が選んだ2020年ラ米重要ニュース

▼コローナ疫病COVID 19猛威振るう

 ラ米最大のニュースは世界の他地域同様、世界史の流れを止めた、この疫病だ。12月時点で域内の死者は50万人を超えた。感染者数で上位最悪諸国20以内にブラジル、アルゼンチン、コロンビア、メキシコ、ペルーと5カ国が入った。3位のブラジルは、反知性・極右のジャイール・ボウソナロ大統領の意識的失政によって、巨大な人口と国土を持て余す「超大型バナナ共和国」に成り下がった。国連ラ米・カリブ経済委員会(CEPAL)は、20年の域内GDPは平均7・7%縮小と発表した。特に打撃を受けたのは貧困大衆、先住民族らだ。

 3月以降、マスクを意味するマスカリージャ、タパボカ、クブレボカ、ナソブコ、バルビホなどの言葉が連日、新聞やテレビニュースに欠かせない時事的用語になっている

▼米大統領選挙でジョー・バイデン勝利

 11月3日実施の選挙で民主党のバイデンが現職のドナルド・トランプの再選を阻んだ。選挙人獲得数は306対232。総得票数は8000万対7400。ラ米は歴史的に米国の影響下ないし支配下にあり、米大統領選挙は重要極まりない。この点は、対米軍事同盟で雁字搦めの日本の立場に似ている。

 米国はバイデン大統領ないし、カマラ・ハリス副大統領の下で、2023年12月のモンロー―教義宣言200周年を迎える。米国をこれまた「巨大なバナナ共和国」に陥れたトランプが去ることを、ラ米の 左翼・進歩主義諸国は歓迎している。

▼ベネズエラ国会議員選挙で政権党圧勝

 12月6日実施の選挙で、ニコラース・マドゥーロ大統領が党首を務めるPSUV(VEN統一社会党)を柱とする政権党連合GPP(大愛国軸)が、一院制国会の定数277のうち256議席を占めて圧勝した。残る21議席は6党が分け合った。新国会は1月6日発足する。

 これにより、19年1月から国会議長を務め、トランプ米政権から「暫定大統領」に擁立された極右の傀儡フアン・グアイドーは自動的に権限を失う。今選挙の投票率は30%と低かったが、マドゥーロ政権は棄権率の高さを批判票の多さと捉え、それを施政に反映させることが必要だろう。

 因みに、グアイド―派国会は1月以降も現国会を延長させる決議をしたが、最高裁は12月30日、これを無効と判断した。

▼ボリビア大統領選挙でMASが政権奪回

 10月18日の選挙で、19年10月の選挙で4選されながら軍事・警察クーデターで打倒されたエボ・モラレス大統領の政党MAS(社会主義運動)のルイス・アルセ元経済相が55%の投票で、決選を待たずに大勝。MASはクーデターで暫定政権を握った非合憲の極右勢力から政権を奪回した。メキシコ、次いで亜国に亡命していたモラレスは帰国し、党基盤の強化などでアルセ政権を支援している。

 アルセ政権は、約1年間の極右政権下で破壊された、モラレス政権が2006年から13年9カ月続けた経済改革、戦略的希少資源リチウム生産、人種差別廃止などの重要政策の立て直しを迫られている。米国はリチウム利権奪取のため、クーデター派に資金を出していた。また米国の影響下にあるOEA(米州諸国機構)は19年10月選挙結果について虚偽情報を流し、クーデター勢力を決起に駆り立てた。

▼チリで民主憲法制定過程始まる

 10月25日、チリで現行の軍政憲法(1980年制定)に替わる民主憲法の起草・制定の是非を問う国民投票が実施され、制定派が78%を得票し圧勝した。投票率は51%だったが、これ制定派の勝利が早くから予測されていたためだ。新憲法を起草する制憲会議(定数155、男女半々)議員を選ぶ選挙は2021年4月11日実施される。

 1973年9月、ニクソン米政権と連携した軍事クーデターで登場したピノチェー軍政が制定した現行憲法は、強権支配や、貧富格差拡大を招いている弱肉強食の新自由主義経済路線が特色で、1990年3月の民政移管後30年も経ったチリの状況に全く合わなくなっていた。教育民営化に怒った学生蜂起など起きていたが、19年10月それが爆発。富豪のセバスティアン・ピニェーラ大統領は今回の国民投票実施を認めざるを得なくなった。社会主義者サルバドール・アジェンデ大統領の憤死から47年、チリはようやく民主憲法制定過程に入った。

▼ウルグアイで政権交代

 19年の大統領選挙に勝った保守・右翼のルイス・ラカージェ・ポウ大統領(国民党)が3月1日就任した。これにより2005年からタバレー・バスケス、ホセ・ムヒーカ、バスケスと2代計3期16年続いた左翼FA(拡大戦線)は終わった。

 「世界一清貧な大統領」と呼ばれたムヒーカ(85)は政界を10月引退し、バスケス(80)は12月肺癌で死去した。

▼ ペルー政権が混乱

 ペルーで11月、奇妙な「政変」が3段階に亘って起きた。2018年3月汚職嫌疑で辞任に追い込まれたPPクチンスキ大統領に替わり副大統領から昇格したマルティン・ビスカラ大統領は、知事時代の収賄嫌疑を攻められ国会で9日解任された。国会議長だったマヌエル・メリーノが10日暫定大統領になったが、全国で抗議運動が起き、メリーノは1週間ももたずに15日退陣。国会は16日、フランシスコ・サガスティを暫定大統領に選出、17日就任した。サガスティの下で21年4月11日、次期大統領選挙が実施される。

▼青息吐息のキューバ

 社会主義キューバは来る元日、革命62周年を迎えるが、外貨欠脳により経済は、ソ連が消滅した1990年代に次ぐどん底状態にある。頼みの観光産業がコローナ輪で壊滅状態になったのが特に響いた。長らく懸案だった国内通貨1本化を12月ようやく、元日に実施すると発表した。米ドルと通貨ペソ(CUP)の間にあった「疑似外貨」兌換ペソ(CUC)を無くし、ペソと米ドルを中止とする外貨だけにするのだ。だが21年前半は限られた商店チェーンでCUCも使えることになっている。

 経済低迷でいつになく政府への不満が高まっており、若者らは公然と反政府言動をとるようになっている。若手芸術家の「サンイシドロ運動」(MSI)が目下脚光を浴びている。共産党政権は「蟻の一穴」で革命体制が危機に陥るのを極度に警戒している。

▼グアテマラとドミニカ共和国に新政権

 グアテマラでは1月14日、極右のアレハンドロ・ジャマテイ大統領が就任した。だが11月、国会を通過した21年度予算が、教育・保健など社会政策予算が削減されたため、コローナ禍で打ちのめされていた貧困大衆が猛反対、大統領辞任を求めた。この国民不満が高まったまま新年にのたれこむ。

 ドミニカ共和国(RD,ラ・ドミニカーナ)では、5月5日の選挙で当選したルイス・アビナデル大統領が8月16日就任した。PRM(現代革命党)初の政権。

▼北米3国の新通商条約発効

 墨米加3国間で7月1日、墨米加条約(T-MEC)が発行した。英語では米墨加協定(USMCA)。これは1994年元日発効したTLCAN(テルカン=北米自由貿易条約、英語ではNAFTA(北米自由貿易協定)に替わるもの。

 トランプ米政権は、NAFTAが米国に不利になったとして墨加両国に改定を求め、それが新条約(協定)になった。

 付記すれば、AMLO墨大統領は、2014年9月に起きたアヨツィナパ学生失踪事件の解明に20年乗り出し、陸軍の関与を明るみに出した。

  

 

 

 


 



 

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