ボリビア大統領選でアルセ当選、政変で先住民目覚める

  ボリビアで10月18日実施された大統領選挙は19日、社会主義運動(MAS)のルイス・アルセ候補が過半数得票に達する趨勢にあり、決選投票を待たずにアルセが「当確」となった。アルセやカルロス・メサの陣営が独自集計を依頼していた民間世論調査会社の集計で、アルセの得票は52~53%の間にある。

 選挙最高審議会(TSE、中央選管)は、投票率は史上最高級の88・39%だったと明らかにした。昨年の政変後、危機感を感じた先住民ら貧困大衆が大挙して投票所に向かったこと、および政治を再度先住民の手に渡さず、白人系富裕層と中産層の支配を復活させたい保守層がメサを勝たせようと投票したことによるのだろう。

 中央選管のサルバドール・ロメ―ロ代表は、選挙結果を認めず支持派がサンタクルース市などで決起集会を開いた極右ルイス・カマチョ陣営に結果を受け入れるよう求めている。

 2位につけ決選に進出すると見られていたメサ元暫定大統領は敗北を認め、アルセの「圧倒的勝利」を祝福。昨年11月クーデターで打倒されたエボ・モラレス大統領に代わって非合憲の暫定政権を握った極右のジャニーネ・アニェスさえもアルセ勝利を祝福した。また米政府はドナルド・トランプ大統領の名でアルセを祝福し、友好関係構築を呼び掛けた。

 副大統領には、ダビー・チョケウアンカ元外相が当選した。

 アルセが、決選必至との前評判を覆して当選できたのは、投票率の高さに現れたように、油断していた多数派の先住民有権者らが、昨年のクーデター後、弾圧され、福祉を大幅に削られたりしたことで目覚めたからだろう。

 亡命先のアルゼンチンにいるモラレスは、自分を追い落としたボリビア軍部に対し、投票結果を尊重するよう繰り返し呼び掛けていた。中央選管が18日夜、電脳開票集計を停止したため、内外で不正操作が懸念されていたが、メサやアニェスが認めざるを得ないほど、アルセの得票の勢いは止まらなかったもよう。

 モラレス前政権は10年を超える姿勢で、先住民族復権を柱とする新憲法を制定。経済政策の民族主義化を推進し、基幹産業の国営化や合弁化で国庫収入を急増させた。それを国民福祉に回し、貧困大衆の支持を勝ち得ていた。

 だがモラレスは国民投票で多選出馬を否定されながら、昨年10月の大統領選挙に強引に出馬。当選したものの極右財界などから「不正」を喧伝され、軍・警察が買収されてモラレスに退陣を迫った。

 命の危険を察知したモラレスは「辞任」し、勢力基盤のコチャバンバに身を隠した後、メキシコのAMLO大統領から助け舟ならぬ「助け航空機」を派遣され、一時ペルー上空飛行を禁止されるなど危険な飛行を経て、メキシコ市に仮亡命した。

 その後間もなく、亜国大統領選でペロン派政権が復活、12月就任したアルべルト・フェルナデス大統領に招かれて、ブエノスアイレスを亡命拠点とした。亜國北部はボリビア南部とアンデス高原と山脈で繋がっており、モラレスはMASの部下たちと接触しやすくなった。

 アルセ勝利は、MASの総帥モラレスが亜国にいたことが大きかった。そうなったのもメキシコ政府が窮地のモラレスを救ったことに始まる。モラレスはアルセ当選後、AMLO墨大統領とマルセロ・エブラ―ル同外相らにあらためて謝意を伝えた。

 トランプ米政権は、ボリビア南部のウユニ塩湖に眠る世界最大級のリチウム資源を狙い、同時に米政府の言うことを聴かないモラレス政権を葬ろうと、クーデターの陰謀に参画した。米大統領選挙の選挙戦で劣勢のトランプの「落日の残照」と対照的に鮮やかなMAS政権の復活だ。だがアルセ勝利を認め、良好な関係を築きたいと表明した。

 1年間のクーデター体制下で、モラレス政権が築いた福祉体制や民族主義経済建設はかなり潰されたが、新政権は、その修復と政策復活に全力を挙げるだろう。アルセは当確第一声で、貧困大衆への生活補助金制度の復活を約束した。

 MASはモラレス帰還の準備に入った。だがアルセは当確後、「次期政権は私の政権であり、彼の協力は受け入れるが、彼が政権内に入ることはない」と述べ、モラレスと一線を画することを明らかにしている。アルセは11月前半に就任すると見られている。

 新政権が発足すれば、クーデターが首謀者、加担した軍・警察高官、暫定政権高級官僚らは亡命を余儀なくされるかもしれない。アニェスは19日、国会で不信任された内相と文化相(ビクトル=ウーゴ・カルデナス元副大統領)を更迭したが再度任命、国会に反逆した。あた19日にはフアン・グアイドー国会議長派のVEN「大使」の信任状を受理した。

 だがアニェスが米政府に350人分の入国査証を申請したとの情報がある。新政権発足後、クーデター関与、弾圧、事件蹂躙、資産奪取などの追及を恐れてのことだ。

 選挙監視団を派遣した米州諸国機構(OEA)は、加盟国に右翼・保守政権が多数派のため、米政府や米財界の意向を汲んで「開票操作」に目をつぶる可能性さえあった。だがメサらが敗北を認めたことで、「当てが外れた」かたちになった。

 米政府、国際資本、OEA、アニェス、カマチョ(3位の大統領候補) らが今選挙の敗者だ。OEAのルイス・アルマグロ事務総長は21日、アルセに祝電を送った。

 最新式の電脳集計装置を備えながら開票作業を止めたり、ゆっくりと再開させたりしていた極右暫定政権と中央選管は、民間世論調査会社に後れを取り、赤恥をかかされた。

 逆にキューバ、ベネズエラ、ニカラグア、メキシコ、アルゼンチンなど、今や少数派になっている「左翼・進歩主義」勢力は、MAS政権復活を歓迎している。 

 ニコラース・マドゥーロVEN大統領、AMLO墨大統領、フェルナンデス亜大統領、クリスティーナ・フェルナンデス亜副大統領、ルーラ伯元大統領、欧州連合諸国首脳らは一斉にアルセに祝電を送った。

 12月6日に国会議員選挙を実施するマドゥーロVEN政権ににとっては、幸先いい援護射撃になった。

▼赤道国大統領選へのコレア派参加認めらる

 エクアドール選挙紛争審査会(TCE)は10月19日、ラファエル・コレア前大統領派の政治運動「希望連合」の大統領選挙参加を認めた。選挙は来年2月7日実施される。

 同連合のアンドレス・アラウス、カルロス・ラバスカルの正副大統領候補は有力候補組。ボリビアでのMAS政権復活決定は間違いなく追い風になる。

▼ボリビア次期政権は玖VENイランと復交へ

 次期大統領に事実上決まったルイス・アルセは10月20日、アニェス現非合憲政権が断交した両国およびイランとの関係を復活させると表明した。アニェスはクーデター直後の昨年11月半ばベネズエラと断交。今年1月下旬、キューバと断交した。

 だがアルセは対米関係正常化も果たす意向だ。モラレス元政権は2008年、米大使を内政干渉を理由に追放し、事実上断交状態にある。

▼99%開票

 中央選管は10月22日までに99%を開票。得票率はアルセ55%、メサ29%となった。「多民族選挙機関」(OEP)によると、アルセの政党MASは上下両院で過半数議席を確保した。3位の極右カマチョは14%だった。

 下院130議席中73、上院36議席中21を握った。第2党(野党第1党)はメサ派の「 市民社会」連盟で、下院41、上院11を獲得した。

 


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