メキシコの学生43人失踪事件、6年経て解決に前進

   メキシコ南部ゲレロ州内で農村教師養成学校生43人が拉致され行方不明になった事件から6年が過ぎた。事件は依然未解決のままだが、アンドレス=マヌエル・ロペス=オブラドール(AMLO)大統領は事件6周年の9月26日、事件捜査について「特別報告」を発表、軍・警察要員ら数十人の逮捕状を執行すると明らかにした。

  事件はようやく、かつ、ついに、解決に向けて動き出した。事件の専任検事は、連邦警察、ゲレロ州警察、イグアラ市警察、陸軍、連邦検察庁などの要員70人の逮捕状が用意され、うち容疑者34人に執行済みと明らかにした。

  同校はゲレロ州都チルパンシンゴ郊外のアヨツィナパにあり、事件は「アヨツィナパ事件」として知られている。

  事件は2014年9月26日夜から27日未明にかけて起きた。事件に遭った43人を含む学生たちは、10月2日の「トラテロルコ虐殺事件」46周年記念集会に参加するため首都メキシコ市へ向かおうと州都でバスを数台乗っ取り、同州北部のイグアラ市に26日夜到着。その時点で地元の市警、州警、同市駐屯陸軍大隊に目を付けられていた。

  バスを降りた学生、通りかかった市民ら6人が銃撃されてた。5人は死亡、負傷した学生1人は連れ去られ、拷問され顔の表面を剥がされた惨殺死体で見つかった。バスを降り逃げるのに成功した学生もいたが、43人は連行され行方不明になった。

  事件はその後、乗っ取られたバスのうちの1台、43人が乗っていたバスに、麻薬マフィアが米国に密輸する麻薬を積んでいたことがわかった。マフィアはひごろ買収している州と市の当局に緊急対応を求めた。当局は、やはり買収されている陸軍大隊に通報した。

  その結果、事件が起きた。当時のエンリケ・ペニャ=ニエト(EPN)大統領(任期2012~18年)は腐敗にまみれた政治家だった。就任2年目に起きた大事件に動揺した。国軍最高司令官である大統領の指揮下にある陸軍の大隊が関与していたため、しかも麻薬を対米密輸するマフィアが絡んでいたため、窮地に陥ったのだ。

  ここまでは、EPN政権終焉時の2018年11月時点で大方わかっていた。

  学生の家族、友人、教師、人権団体、知識人らは政府に真相究明を求めて運動を展開。とくに毎年9月26日には首都メキシコ市目抜き、遊歩道のついたㇾフォルマ大通りを行進し、連邦検察庁前で抗議集会を開く。今年のこの日も例外でなかった。

  EPNは「事件解決」を何度も口にしながら、その公約を守らず任期を終えた。

  後継のAMLO現大統領は、就任前からアヨツィナパ事件の早期解決を約束していた。国軍とくに保守的な陸軍はAMLOの国政に批判的で、就任1年目の去年、早くも「軍事クーデター発生可能説」が流れ、同事件捜査の難航が予想されていた。

  AMLOは、従来、麻薬マフィア取締りの中心的地位を占めていた国軍部隊を後方に下げ、新たに国家警備隊を創設して麻薬取締まりに当たらせている。国軍は「麻薬取締り」という<利権>を大きく失い、これもAMLOへの反感を強める要因になった。

  だがAMLOはアヨツィナパ事件の捜査を進め、ついに事件関与者を特定、逮捕状を出すまでに至った。容疑者を逮捕すれば、必然的に陸軍の事件と麻薬取引への関与を明るみに出さなければならないだろう。大統領は職務上の大きなリスクよりも、事件の真相を国民の前で暴くことに重きを置いたと言える。

  この国の犯罪史上に残る深刻な大事件は、未解決のまま7年目に入った日に、ようやく闇を抜け、解決への具体的段階に移った。国家暴力、制度的腐敗、犯罪者無処罰というメキシコの限りなく深い暗部から事件の真相をどこまで探り出せるか。それが鍵だ。

  AMLOの発表では、事件の教唆犯、実行犯ら容疑者数十人は連邦警察、陸軍、検察庁にまたがり、容疑者たちの居場所はすでに特定されている。教唆犯にEPN前政権の首脳、閣僚、軍司令官らが含まれるか否かも焦点。

    この日、大統領政庁内庭でAMLOの発表を聴いた学生の家族らは、「学生たちはどこにいるのだ。生きたまま還してほしい。それなしに解決はない」と口にした。 

▼米当局が元墨国防相を逮捕

 メキシコ政府は10月16日、ペニャ=ニエト前政権期の2012~18年に国防相を務めたサルバドール・シエンフエゴス退役将軍が15日、米DEA(麻薬捜査局)の手配によりロサンジェルス空港到着時に米警察に逮捕された、と発表した。

 容疑は麻薬取引と資金洗浄。昨年8月、米国で起訴されていた。容疑者が国防相だった14年9月、アヨツィナパ事件が起きており、同事件との関与も取り調べられることになる。同容疑者は、カルデロン元政権期(06~12)には国防事務次官を務めた。

 昨年12月には、カルデロン政権期に公安相だったへナロ・ガルシア=ルナ容疑者も米ダラス市で逮捕されている。麻薬王だったホアキン”チャポ”グスマンから01~12年に巨額の賄賂を受けとっていた。

【米連邦裁判所は11月18日、シエンフエゴス被告の麻薬取引容疑を取り下げた。】

 ▼陸軍準大尉を逮捕

 メキシコ当局は11月13日、アヨツィナパ事件に関与した容疑で陸軍準大尉 ホセ・マルティネス=クレスポを逮捕、首都陸軍第1軍団拘置所に収監したことを明らかにした。容疑は組織犯罪、殺人、強制失踪。事件現場だったイグアラ市駐屯の陸軍第27大隊に所属していた。この事件に直接関与した軍人容疑者の逮捕は初めて。





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